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2004/09/11 魂の低いヤツには注意だ ---- タクシーに乗って
俺は毎朝、2回電車を乗り換えて会社に通勤している。最短の時間で会社に着こうとするとこうなってしまう
のだ。しかし代案もある。東武伊勢崎線は日比谷線に直通運転もしているので、乗り換えなしでもそこそこ会
社に近い駅に着くことができる。その駅から会社までは、徒歩約10分だ。
そこで、俺は会社帰りはそちらのルートを使うことがよくある。疲労困憊の体で接続の悪い乗り換えを繰り返
すよりも、ほぼ確実に座って帰れる直通ルートは魅力がある。
そして終電間際ともなると、会社からその駅までタクシーに乗っていくこともある。この間も、俺はそうする
ことにした。
その時の話をしよう。
最終退場者として、フロアの消灯と戸締りをしてビルを出る。溜息が抑えられない。納得のできないことが多
過ぎる。馬鹿共め、俺の仕事はおまえらのミスを指摘してやることじゃない・・・
会社の裏口から通りに出て、タクシーが通るのを待つ。腹立たしいことに、この辺りはタクシー運転手の休憩
所のようだ。道の端に駐車してエンジンを切り、椅子を倒して眠りこけている運転手。そんなのを見ない夜は
ない。そして肝心の、俺を乗せるべきタクシーはいつまでも来ない。
ようやく俺の前でタクシーが止まる。乗り込んで行き先を告げると、俺は不機嫌さを隠さずに渋い顔で口をつ
ぐむ。こんな気分の日に、間を埋めるだけの無駄なお喋りになぞ付き合っていられない。何が「今日は暑かっ
たですね」だ。そんなことを喋っておまえら嬉しいのか?
だが走り出してすぐに、俺の関心は別のことに奪われる。その日の運転手はその角で左折しなかったのだ。別
ルートを選ぶ必要性など何もない。今までのタクシーは常にそこで左折し、俺を駅まで連れていった。
「この野郎・・・」俺は心の中でごちた。
深夜料金だからメーターが変わるのは早い。まさかこの距離で1メーター進める気じゃねえだろうな。よりに
よってこの俺からぼったくる気かよ。このおやじ。
その後も運転手は意味のない角で曲がったりして、あからさまに遠回りしている。俺は不機嫌な顔つきのまま
罵詈言語を選び始める。面倒だから一発ぶん殴ってやろうか?
駅が近付くがメーターはまだ変わらない。運転手は待ちの長い交差点の右折箇所に車を進めようとするがそう
はいかない。
「おい。そこで降ろせ」
「は。良いんですか? 目の前で停めますよ」
俺が命令形で拒否の意思を告げると、運転手は黙ってタクシーを停める。メーターは変わらなかった。
しかし安心はできない。この腐ったおやじは釣りをごまかすくらい平気でやりそうだ。こんな糞に良い思いを
させていたら不愉快だ。660円に対して札を一枚。340円になるはずの釣りを俺はじっくりと確認する。
やはり金額が合わない・・・
だが俺は何も言わずタクシーを降りた。
駅に向かって歩く俺の手は百円玉4枚と十円玉4枚を握りしめていた。
魂の低いヤツには注意することだ。
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