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2004/04/20 イラク、邦人誘拐事件 → 解放
幸いなことに、拉致された3人+2人の日本人は無事解放された。
俺も、多くの人がそうであったと思うのだが、テレビに繰り返し映される解放直後の映像を見、まずはほっと胸
を撫で下ろした。
よかった。
イラクのテロリストが人質を解放した本当の理由は・・・などと問うことさえできない。
ただ、公的には言われている「イラクのためにやってきた、イラクの友人を殺すわけにはいかない」という言葉
の向こう側にあるかもしれない彼らの気持ちを想像する。
俺は良く憶えている。2001年9月11日。
ニューヨークの世界貿易センタービルにハイジャックされた旅客機が突入し、ヴァージニアのペンタゴンとペン
シルベニアにも飛行機が落とされた。
「俺たちは確かにあの時ビルが崩壊する音を聞いた」と言えるだろう。あの後、苛立ちや無力感、絶望してはな
らないこの場所でしかし何をどう希望することが正しいのかさえ言えず、自分の問いの前に自ら俯かなかった人
がどれだけいるのだろう。
それはもしかしたら俺の想像より多いのかもしれない。
俺は会社の同僚がさらっと「え、テロ? そんなのあたしたちに関係ないじゃん」とか言ったのを聞き、こいつは
度し難い阿呆だと断じ、救えない屑中の屑として彼女を軽蔑した。
書店で見つけた本の帯に「戦争が答えではない」と書かれていた。俺の好きな坂本龍一や村上龍などが、あの事件
の後で集めた論考をまとめた本だった。
こういう世界的な危機の中で一人の作家に何ができるだろうとニヒリスティックになるのは危険だし、卑怯だと
いう思いもある。しかし自分にも何かができるはずだという思いは傲慢だという疑いが消えることはない。
(村上龍)
知る、ということは生死に関係する。
(坂本龍一)
確かにそういうことだ。いくつもの悲嘆と絶望そして死が、俺たちに「不可能」という判決を与え、そしてそれ
が持つ説得力を承知の上で、俺たちの生はその絶望に矛盾するために、俺たちは引き裂かれてしまう。
時にビリビリと、悲鳴のような音さえ立てながら。
俺に何ができるだろう。
それは俺には分からない。
ただ、一つのことで全てを試される瞬間というのは突然に訪れるものだろう。
その時のために備えなければ、と思う。
人質として拘束されていた日本人が解放された。
俺はそれを嬉しく思う。
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